娘にサンタクロースの正体がばれた

娘にサンタクロースの正体がばれた。

クリスマスから、きらめきと魔術的な美が、ついに奪い取られてしまった。

 

娘は小学4年生。

サンタクロースの正体を知っても仕方がない年齢ではある。

 

正体がばれた理由は、娘が育児マンガを読んだから。

東村アキコさんの『ママはテンパリスト』を読んでしまったから。

お母さんが息子さんのプレゼントをネットで買う場面をしっかり見つけてしまった。

うっかり書棚に置いておいた自分の痛恨のミス。

 

いや、でも、まだ10歳だよね。

育児マンガとか読まないでほしい。

育てられている側がこっちの領域に入ってこないでほしい。

 

いい機会なので、今までのクリスマスを振り返ってみた。

これは、サンタクロースを信じさせようとする親と、成長する娘との、ある闘いの記録である。

 

【幼稚園時代】

幼稚園までは何の問題も無かった。純真無垢なこどもにとっては、サンタクロースがいないことを信じるほうが難しい。そもそも、キリスト教系の幼稚園に通っていたため、神さまやイエスさまやマリアさまも信じている。いわんやサンタクロースにおいてをや。ただし、幼稚園のクリスマス行事に出没するサンタクロースに対しては、娘も「偽物」と察していた。サンタクロースの存在を本気で信じさせようとしている親の立場からすると、「赤い服着て白ひげつけてヘラヘラしてりゃサンタでしょ」程度で子どもたちの前に出るのは御遠慮していただきたい。いったいどんな演技プラン練ってきてるの? それで子どもたち信じると思ってんの? ってかどう見ても幼稚園の英会話の先生じゃん? これでサンタの実在に疑いもったらどうするの? 「偽のサンタがいる」ことを子どもが知ると、信じさせ続けるためのハードルは高くなる。

 

そんなわけで、ありとあらゆる方法でサンタクロースの存在を補強していく。サンタ村でゲームをさせて気分を盛り上げる。googleNORAD(北米航空宇宙防衛司令部)のサイトを駆使してサンタクロースを追いかける。自宅内で撮影されたサンタクロースの合成写真を用意する。子どもたちがサンタクロースに用意したお菓子を夜中にこっそり起きて食べておく。サンタクロースの目撃談を語る。「夜中まで起きて、一緒にサンタをつかまえよう!」と盛り上げておいて、子どもが寝てしまうようにうまく導く。涙ぐましい努力の数々。

 

一番の問題は子どもが欲しいプレゼントがころころと変わること。テレビでCMを見るたびに、店頭でおもちゃを見るたびに欲しいものが変わってしまう。シルバニアからプリキュアへ。スプーンペットからレゴブロックへ。リカちゃんからシルバニアへ。いつの間にか振り出しに戻ってるし。結局、「サンタクロースに手紙を書いて、欲しいものを伝える」というシステムが導入された。クリスマスの1ヶ月前(待降節のはじめ)にはサンタクロースに手紙を書くべし。さもなくばサンタクロースはプレゼントを用意できない。サンタクロースにも都合がある。発注とか梱包とか。子どもが手紙を書くと、サンタさんに出してくるふりをして職場に持っていきこっそり処分。すぐにおもちゃを注文し、以後は取替不可。こうして、子どもたちは、つつがなく目的の品を手に入れ、我々はクリスマス前の品不足や価格上昇を前に難事を片付ける。めでたしめでたし。

 

【小学校低学年】

だんだんとサンタクロースについて疑問に感じだすお年頃。周囲でも知っている子は知っている。露骨にサンタの正体をばらしてくる子こそいないものの、匂わせてくる子はいる。娘自身もサンタクロースにいろいろ矛盾を感じ来て、いろいろと質問しはじめる。

 

「どうして欲しいものがわかるの?」「そのためにお手紙を書いているんだよ。」

「どうやって世界中の子どもに?」「たぶんサンタさんってたくさんいるんだよ。」

「どうして家がわかるの?」「スマホでも持ってるんじゃないの。」

「どうしてそりで空を飛べるの?」「ドローンみたいなものじゃないの。」

「どうやって家の中に入るの?」「んー、よくわかんない。」

 

質問への答えもだんだんいい加減になっていく。そして子どもが納得いく説明をしようとするたびに、なんだかサンタクロースとその周辺が無味乾燥で味気ないものになっていく。サンタクロースの居住地も「寒い所」→「北ヨーロッパ」→「フィンランド」と具体的に説明せざるを得ない。もう苦しまぎれだ。この時点で既に、クリスマスからきらめきと魔術的な美は失われつつあったのだ。世界中の子どもたちからオーダーをうかがい、注文に応じて期日まで確実に届ける大勢のサンタクロース。それはもうAmazon。まあ実際にAmazonで買っているんだけれども。

そして、いつの間にか、サンタポイント(略称SP)なる謎のシステムが導入されている。善行を施すとサンタポイントが上昇。悪行を積むとサンタポイントが下降。カメラをとめるな。カルマはさげるな。こうして、子どもたちは、プレゼントほしさに品行方正となり、我々は師走の多忙な時期に仕事に邁進できる。めでたしめでたし。

 

 【小学校中学年】

 小学校中学年ともなると、親との関係より友人との関係が深くなってくる。徒党を組んだりケンカしたり、まさにギャングエイジ。そんな子ども間のやりとりが密になっていく中で、多くの子どもたちがサンタクロースの正体に気づいてくる。直球を投げ込んでくる友達も出始める。「えっ?マジで信じてるの?」「いるわけないじゃん。」「サンタって親だよ。」 あー、それ言っちゃだめなやつ。夢見る少女でいさせてあげて。娘も当然疑惑レベルがあがり、いろいろと質問してくる。もはや回答不能。ということで強権発動。「サンタクロースは信じている子どもの所にしかこないんだよ。」という後付の謎設定。でも子どもはプレゼントが欲しい。本当にいるかどうかは疑っているけれど、とりあえず信じるふりはしておこう。たぶん去年はこんな感じだったのかもしれない。

 

 

しかし、今年は無理だった。

実際に「お母さんがおもちゃをネットで注文しているシーン」を読まれてしまっては、言い逃れはできない。

もう、あきらめるしかない。

 

私は娘の肩をポンと叩いて声をかける。

「これからは、我々の仲間になるんだ。」

そう、まだ弟がいる。

サンタクロースを信じ、サンタポイントもたっぷり貯め込んでいる。

娘には我々の軍門に入ってもらい、尖兵となってもらうことにした。 

弟はいつまでサンタクロースを信じてくれるのだろうか。

 

我々の闘いはまだまだ続く。